音楽配信サービス世界版
活況する世界の音楽ストリーミング市場
日本でも注目度が高まっているSpotifyやApple Musicなどの音楽ストリーミングサービス。2019年頃から国内アーティストが各サービスで楽曲を配信し始めたことで、注目度が一気に高まったと見られる。
この音楽ストリーミング市場、日本はどちらかというと「late adopting(浸透が遅れている)」と評価されている。先行するのは北米や欧州だ。これらの地域が世界の音楽ストリーミング市場の拡大をけん引している。人気が高いのはSpotify、YouTube Music、Apple Musicなどのグローバルなサービス。
一方で、アジア、アフリカ、中南米などでは、こうしたグローバルなサービスだけでなく、ローカル発のサービスが続々登場し、市場は多様化・競争激化の様相を呈している。
活況する音楽ストリーミング市場。世界では今何が起こっているのか。
今後5年でストリーミングによる収入額は2倍以上に?
まず音楽ストリーミングサービスの世界市場の動向を概観してみたい。
MIDiAがこのほど発表したレポートによると、世界の音楽ストリーミングサービスによる収入額は、2018年に196億ドル(約2兆円)となり、前年の152億ドル(約1兆6,000億円)から29%増加。今後もユーザー数の増加が見込まれ、収入額は10~20%で拡大することが予想される。
同レポートの予測によると、2022年に333億ドル(約3兆5,000億円)、2026年には453億ドル(4兆8,000億円)に達するという。5年ほどで収入額は、現在比で2倍以上拡大することになる。先行する米国、英国、スウェーデン、オランダ、オーストラリアにおける成長率は鈍化するものの、ブラジル、メキシコ、インドなどの新興市場が成長を支える。また「late adopting」とされるドイツや日本における今後の成長が期待されるとのことだ。
音楽ストリーミングのユーザー数にまだまだ伸びしろのあることを考慮すると、今後上記の予測以上に市場は拡大する可能性がある。MIDiAの推計では、2019年6月時点におけるストリーミングサービスの利用者数は3億490万人。2018年6月から6,900万人の増加となった。
ユーザー数で見る市場シェアは、Spotifyが最大。その割合は36%(1億810万人)。次いでApple Musicが18%(5,470万人)、Amazon Musicが13%(3,830万人)、Tencent Musicが10%(3,100万人)、Google/YouTube Musicが5%(1,620万人)、Deezerが3%(850万人)、Pandoraが2%(710万人)。
この数字は先行する北米・欧州市場の状況が強く反映されたもの。他の地域では、それぞれに独自の発展を遂げている。
2019年の全世界の定額制音楽ストリーミング・サービスの会員数をまとめた。全会員数における各社が占める占有率(シェア)は上図。売り上げではない。会員数。
1位)スポティファイ 35%
2位)アップル・ミュージック 19%
3位)アマゾン・ミュージック 15%
4位)テンセント・ミュージック 11%
5位)YouTubeミュージック 6%
アップル・ミュージックの会員は2018年に比べ、36%伸びた。アマゾンは2018年の占有率が10%なので、これまた大きく伸びた。4位は中国のテンセント。スポティファイと合弁のQQミュージックやKugouとKuwoを所有する。ユニバーサルミュージックが戦略的パートナーとして10%の株をテンセントに売った。定額制音楽ストリーミング・ビジネスは肥大する。
会員数の伸びは、ポッドキャストなどで独自コンテンツを提供していることによるもので、それに興味をもったユーザーがストリーミングプラットフォームに魅力を感じ、その後、有料会員になっている。さらに、新興国での料金値下げによるプロモーションや、キャリアの抱き合わせ販売が、成長を後押ししている。オンライン音楽ストリーミングは、20年末までに前年比25%以上成長し、会員数は4.5億人を突破すると予測している。
19年にグローバル市場でトップの座を獲得したのはSpotify。売り上げで31%のシェア、有料会員数で35%のシェアを獲得している。これに続き、Apple Musicは売上シェアで24%、有料会員数シェア19%を獲得している。Appleは、Apple Musicを含むサービス事業に注力していることもあり、会員数が19年に前年比36%増加している。また、Amazon Musicの会員数シェアは19年に15%となり、18年の10%から増加している。
グローバル規模のストリーミング企業が自社のプラットフォームを強力に売り込む中、地場の企業も健闘している。地場企業は、地域による知名度と、各地域固有なコンテンツの提供とを武器にしている。例えば、Gaanaは依然インド第1位。Yandex Musicは、ロシアでリーダーのポジションを獲得している。
アラブ世界で首位のAnghamiも同様だ。また、Tencent Music GroupはQQ Music、Kugou、Kuwoといった再生プレーヤーアプリによって、中国市場のリーダーのポジションを獲得している。
また、地場のストリーミング企業、グローバル企業のどちらも独自コンテンツ制作に注力しているという。有料会員数を伸ばす上では独自コンテンツが必要となるため、ポッドキャスト企業を買収し、独自のチャンネルを作る動きが各所で起きている。
音楽ストリーミングの売り上げは、8割以上が有料会員からで、残りが広告や提携する端末やキャリア企業からの売り上げといった構成。そのため、有料会員数を伸ばすことは、音楽ストリーミングのプラットフォームを運営する各社にとって最優先課題となっている。
なお、OTT業界(ストリーミングをはじめとするコンテンツサービス)へのCOVID-19(新型コロナウイルス)の流行の影響については、自宅にいながら最新状況を追いかける状況下にあることから上向くと予測している。
インターネットとスマートフォンの普及で大きく市場が拡大しつつある動画や音楽配信市場。その実情と近未来の予想を、総務省が2020年8月に発表した情報通信白書から確認する。
最初に示すのは、世界の動画配信市場の規模や契約数の現状と2022年までの予想。2019年までが確定値で2020年以降は予想値。データの一次ソースはイギリスに本社を置く情報事業の多国籍企業Informa社となっている。
インターネットによる配信ビジネスではどの国、どの業界でもおおよそ似たような流れを示しているが、動画配信も当初は無料で提供・広告収入で利益を得るような、広告収入型のモデルが主流だった。有料配信ができるほどの品質も、利用客も確保するのが難しいとの思惑によるものだろう。しかし技術の進歩による動画の品質向上とインターネット利用者そのものの増加に伴い、有料の配信サービスが認識され、利用される機会も増えてくる。
また有料配信サービスもDVDなどの有形媒体によるビジネスのような、作品単位のダウンロード課金から、定額制で一定枠内のコンテンツを自由に選択して何度でも視聴できるサブスクリプションのスタイルが多く使われるようになっている。
あくまでもInformaの予測だが、今後も売り切り的な動画配信よりも、定額制による視聴環境提供型の動画配信ビジネスの方が成長率は高く、利用者も伸び続けるようだ。2015年時点で定額制の売上は動画配信の売上全体の70.3%でしかなかったが、2022年の予想値では実に92.0%にまで達している。
音楽配信市場ではより顕著な形で、ビジネスモデルの大規模なシフトが確認できる。